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NO STONES NO LIFE その4

「いやいや、参りましたよ。」Tくんが帰ってきた。
「ギリギリで焼酎買えませんでしたよー。買い物カゴで順番取っていた人達がいて、やられちゃいました。」

「いったい、何人が買うことができるの?」僕が訪ねる。

「今日は14人、1人一本です。」「買い物カゴなんて、、、、」Tくんは悔しそうにつぶやいている。

「Tくん、グアテマラではね、」ここぞとばかり、僕はコーヒー豆の話しをしようとしてTくんの方を振り返る、がTくんの姿が見当たらない。まわりを見渡すと、Tくんは切り立った岩山の上でもう観察を始めていた。なんという変わり身だろう。相変わらず読めないやつだ。

誰かが採集した跡なのだろうか、よく見ると所々に水晶のかけらが落ちている。一部が欠けてしまっているもの、透明感が無く濁った色をしているもの、大きい塊やほんのちいさな結晶など、さまざまな種類のものがあった。しかし、よく見ているととても小さいけれどクリアで綺麗なものだったり、欠けてしまっているけれどどこか面白いかたちをしている結晶が結構転がっているではないか。僕は楽しくなってきて、自分の好きな感じの結晶を探し始める。いろいろと探し始めているうちに自分の好みが少しずつ分かってくる。僕はどうやら大きさより、どれだけクリアであるかとか、どれだけ輝いているかということを重視するようだ。誰かの目には落選してしまった石達でも僕にとってはイケている石が結構あるから面白い。誰にでも何百万通りの喜びがあって、幸せは決して品切れになることは無いんだろう。そう思うと心がワクワクしてくる。自然から何かとても大切なことを得たことに感謝の気持ちでいっぱいになって、心の中が今日の空のようにスッキリと晴れ渡り、大きく大きく広がっていくような気がした。

「どうです、けいさん。もう少し海に近いところまで行ってみませんか。よさそうなところがあるんです。」Tくが五メートル程ある細長いかたちをした岩山の上から声をかけてきた。Tくんはタンクトップ姿になっている。

ここはいったいどこなんだろう、僕の感覚が薄れていく。下手な思いこみは捨てなければならない。ここは水晶に囲まれた土地で、空は晴れ渡りタンクトップが気持ちいい。

「いいね、いこう。」もっと素敵なものが見つかるだろう。僕は一番気に入った水晶のかけらを胸のポケットにしまい、小高い岩の上から勢いをつけてジャンプした。僕の足下にあった水晶が大きく飛び散る。飛び散った水晶がキラキラと七色の光を放つ。そして、その光は遙か海のきらめきの中に溶け込んでいった。

おわり
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by kei-jewellery | 2010-12-26 22:41

NO STONES NO LIFE その3

穏やかな冬の昼間。風ひとつ無く、海は完璧に凪いでいる。赤い色のどでかい岩盤は巨大なテーブルで、海は果てしなく続く青のカーペットのようだ。かつて、ここには天空の神ゼウスの休憩場所だったんじゃないだろうか。僕は一人になり、改めてこの場所のスケールの大きさを実感する。雲ひとつ動かない静止した景色の中、ありとあらゆる種類の音が空気に溶け込んでいて、僕を囲む空気を重たく感じさせる。水晶はキラキラと輝きを大気中にはなっていて、とても眩しい。

 Tくんは無事焼酎をゲットできたのだろうか、Tくんが住む安房は都会だから競争率が高そうだ。そういえば今朝郵便局で酒屋の親父さんが焼酎のケースを出荷しているのをみかけたな。グァテマラに行ったとき、どこのカフェに入ってもコーヒーがインスタントだったのを想い出す。グァテマラではコーヒー豆は重要な国の財源で、その殆どが輸出にまわされる。日本で僕たちが気軽に飲んでいるグァテマラの高級なコーヒーを現地の人達は味わうことはない。
グァテマラとメキシコの国境付近では良質の琥珀や黒曜石(オプシディアン)、ターコイズが産出される。メキシコ最南端の街サンクリストバル・デ・ラスカサスではインディオや旅人達が路上でそれらの石を使って作ったアクセサリーを売る。虹色をした衣装を纏ったインディオ達やロバたちが霧の中、石畳に覆われた街を歩いている。最高にかっこいい街だ。
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by kei-jewellery | 2010-12-23 22:18

NO STONES NO LIFE その2

薄暗い森を抜けると、一面に海の青が広がった。風が全く吹いておらず、海面は真っ平らで、それはまるで青い色をした大地のようだった。
岸壁は巨大な赤い岩でできていて、所々に砕け散った跡が残っている。ここは昔、タングステン鉱山だったんですよ、とTくんが言う。ダイナマイトで岩を砕き、採掘をした跡のようだ。二人は砕け散った岩の上をつたうイバラの上を歩く。赤い岩の所々に走る白い線が見えますか?あれが石英の層なんです、Tくんは僕の前を軽快に歩き続けている。目の前には巨大なテーブルのようなかたちをした赤い岩が散りばめられていて、その表面を無数の白い線が走っている。水晶の鉱脈だ。

足を進めるに従ってまわりがキラキラと光る世界に変わる。冬の太陽の日差しが水晶に反射しているのだ。あらためてまわりを見渡すと、僕の足下も後ろも横の壁もずっと前の方まで輝く世界が続いていた。「そうだったんだ、この土地全体が水晶でできているんだ。」

「けいさん、この辺なんてどうですか?結構大きな結晶ですよ。」
「マジで、うわ、ほんまや。むっちゃキレイや。」
「石英の層の中に空洞があって、その中に水晶は結晶を作るんです。ほら、そのへんの穴のところとか。」
「早っ、ほんまや。しかし速いね、みつけるのが。」
「こうやって、白い線をたどっていくんですよ。ずっと、ほら、この辺りのくぼみなんていいんじゃないですか。」
「やばっ、凄い。」
「少し高いところに立って、この線を見渡すんですよ。こうしてずっと、あの岩の方まで。」

Tくんはハンターだ。ひょんぴょんと岩の上を飛び回り、次々とポイントを発見していく。鉱脈の中で彼の神経は完全に研ぎ澄まされている。僕は完全に水晶のきらめく世界に心を奪われてしまっていて、その場に座り込み、自分の世界に入ってしまっていた。いつもこうなんだ、石と向き合うと、僕は我を忘れてしまう。バンコクに石の買付に行ったとき、最高級のルビーをみせられて、「ナインハンドレットダラーズ。ベーリーチープ」と言われたときもそうだった。頭の中がぽわーっとしてしまい、もう少しで買っちゃいそうになってしまったことがあった。いったいそんなルビーを何に使うんだ。まったく。特に商売で石を扱うには常に冷静な判断が必要とされる。決して個人的な感情に陥ってはいけない。だから、僕は石で商売をすることはできないのである。残念ながら。

いまからすこし、焼酎を買いにスーパーに並んできます、突然Tくんがそう言って現場から立ち去っていった。
そして、僕はそこに一人残された。
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by kei-jewellery | 2010-12-21 21:54

NO STONES NO LIFE その1

「水晶の鉱脈でも見に行きませんか?」友人のTくんから連絡があった。
「いいねえ。行こうか。」僕はすぐにそう答えた。ちょうど仕事が一段落ついたところで、良いタイミングだった。そして、僕は石が大好きなのであった。

Tくんの家の前で待ち合わせ、隣のたなか屋でパンを買い、Tくんの車に乗り込んで車を北に走らせた。快晴の十二月、二人ともシャツ一枚の格好だ。Tくんは濃いグリーン色のシャツで僕は白だ。車のダッシュボードには“千の風になって”のCDが置かれてある。なかなか読めない男だ。
しばらく走り、県道をそれてススキに囲まれたダートロードを進んだ。初めて石と出会ったのはスリランカの鉱山だった。19才の僕は先輩と一緒に旅をしていて、観光がてらルビーの採掘場に行った。ジャングルの中に突然現れた採掘場は原始的だった。直径二メートルくらいの入り口の深い深い穴がいくつも掘られてあって、その穴の横には掘り起こされた赤い土がつまれてある。労働者達は一日中その穴の中でルビーの原石を探し続ける。石を見つけると雇用者から数パーセントの報酬をもらえることになっているので、彼らは手を抜かない。大きな石を見つければ大きな報酬を得ることができるからだ。大きな報酬を得て彼らは新しい土地を買い、人を雇ってそこを採掘する。その採掘現場の中にある事務所のようなところで僕はルビーのルースと指輪を買った。
「ここから歩きます。」Tくんが車を止めた。あたりの地面は赤い土で覆われていて、所々に車のタイヤの跡がついている。意外と人が訪れるようだ。僕たちは車から降りる。
「行きましょうか」海がもうすぐそこにあるのだろう、潮のにおいを含んだ風がススキを揺らし、僕達の体を包み込む。
「うん、行こう。」僕たちはススキの群生を越えて、海に続く薄暗い森のトンネルをくぐった。
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by kei-jewellery | 2010-12-20 22:21

スローなうねり

朝一番、海にはいる。
中間の海に最高の波が訪れていた。誰もいない海、つるりとした海面はカタチをもたない鏡のようで、柔らかい冬の朝日を浴びてキラキラと輝いていた。これはいったい、誰からのプレゼントなんだろう。僕は今日が、大切な人が亡くなった日だと言うことを確認した。その中に爆発的な力をため込んだ“うねり”がとてもスローに見える。案外むこうでも気楽にやってるんだろうな、僕は実感することができた。そして、僕は僕のことを集中してやり遂げようと決意した。

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by kei-jewellery | 2010-12-17 00:31

深紅の飛行艇

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シダをモチーフにした作品にとりかかる。
東京にある、ヤスリと糸鋸の輸入が専門というなんともマニアックなお店から取り寄せた糸鋸の刃を使ってみた。スイス製である。
切れ味は最高なのだけれど、うまくコントロールするのが難しい。“紅の豚”でポルコが乗っていた真紅の飛行艇のようだ。うまくあやつると最高のパフォーマンスを発揮する暴れ馬というところだろうか。

冷たい北風が吹き続ける中、作業を続ける。部屋の中には頂き物のポンカンと安納イモが所狭しと並べられている。最高の季節だ。庭のツワブキたちは待ちきれないと云わんばかりに、新たなつぼみをつけ続けている。
まわりの世界全体が小さく、はじけるように躍動している。
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by kei-jewellery | 2010-12-15 22:01

白のツワブキ、黄金色の時間

午前中はツワブキの花をモチーフにした作品の制作。
友人が奥様のためにとオーダーしてくれた指輪だ。遠く離れているけれど、写メールや電話、ファックスなどを駆使してアイデアをまとめながら制作をしている。二人でひとつのものを創っている感覚だ。大切なものを僕に任せてもらえて嬉しい。とてもよい出来上がりがイメージできる。

昼食後、ツワブキの観察をするため、集落内をゆっくりとまわる。色とりどりの花が集落を飾り、あたりはたくさんの色であふれている。冷たい冬ではあるのだけれど、そこには暖かい温度を感じることができる。僕は家をでて坂を下り、海沿いをぐるりとつたってガジュマルまで歩いた。昼下がりの太陽の光とあふれんばかりのツワブキの黄色が混ざり合っていて空気を染めている。海沿いのまちには黄金色の時間が流れていた。

黄色のツワブキの中に白のツワブキをみつけた。黄色はゴールドで白はシルバーだ。それぞれに合う石をつけた作品をたくさん創ろう。そして、この昼下がりのこの空気を創り出そう。

午後は紫陽花をモチーフにした作品の制作。
素晴らしい自然に囲まれて今日も制作ができることに感謝。
ありがとう。


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by kei-jewellery | 2010-12-11 23:26

後に残るもの

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隣の家はずっと空き家になっているようなのだが、その庭から咲く花の趣味が実に良い。
季節を彩る花たちを観ていると、前の住人が植物を愛していたんだなというのが凄く伝わってくる。
なにかが後に残っていくことって、いいなと思った。
僕のジュエリーも百年先にも残っていたら嬉しいな。
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by kei-jewellery | 2010-12-09 22:29

シダを取材する

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作品のモチーフにするシダの取材。山に行く。

いつもはたくさんの人でごった返すルートも、今日は誰もいない。登山口には車がたった四台留まっていただけだった。一旦取材を始めると、登山道のすみに座り込んで植物をじっと眺め続けることになるので、人が少ないのはとても有り難い。怪しまれないで済む。もしくは過剰なコミュニケーションを被らないで済む。「おにいちゃん、なにみてはんの?」「いやーシダやって、シダ。○○ちゃんシダやってえー。」「おにいちゃん、専門家やねー。プロやわー。」etc,etc, ,,,,,なんでやねん。

ありったけの服を着込んで歩き始めたけれど、十二月の登山道にはひんやりとした空気がしみこんでいる。手足や首回りはとても寒く感じられたけれど、胸やお腹など体の中心部分は暖かく感じたのでその暖かいところに意識を集中して歩いていると体全体がとても暖かくなってきた。まあ、こんなものなんだろう。

目的のシダの取材をしているうちに、今日もテンションが上がってきていろんなイメージが湧いてきた。僕には強烈に創りたいものがあるんだ、と実感することができて何故か少しほっとした気分になった。

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by kei-jewellery | 2010-12-08 21:41

ぐるりまわるいのち

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by kei-jewellery | 2010-12-07 22:29


ケイ ナカムラ ジュエリーは屋久島発のジュエリーブランドです。作家・中村圭がジュエリーと写真と文章で、日々の美しさをお届けします。しずくギャラリーとホームページにて、作品を観て頂けます。


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